第6章
第34帖「若菜(上)」~
第38帖「鈴虫」
宮中内の源氏の地位が最高潮になっていた頃。
源氏は、異母兄であり前帝を務めていた朱雀院から、出家を考えていることを打ち明けられます。
出家を前に、朱雀院には気がかりなことがひとつありました。
それは朱雀院の愛娘・女三宮(おんなさんのみや)の将来のことで、
「まだ年若く、母を亡くした女三宮には、結婚の相手も決まっていない。出家し、世俗を捨てるにしても、女三宮の将来のことだけが心配なので、どうか娘を源氏の正妻として迎えてはもらえないか」と、頼み込まれてしまいます。
源氏には紫の上や明石の上という妻がいましたが、二人は「正妻」ではなく、愛人のようなポジション。
「これまで自分が兄として慕い続けてきた朱雀院からの頼み。断ることはできない…。」
と考えた源氏は、朱雀院が言う通り、女三宮を正妻として迎えることを約束しました。
この話に大変なショックを受けたのは、紫の上です。
紫の上は、これまで源氏がどんなに浮気をしようと、決して源氏のもとを離れず源氏を愛し続けてきましたが、貴族としての後ろ盾がないために、ずっと源氏の正妻になることはできませんでした。
「そのような自分を差し置いて、女三宮という正妻がやってきてしまう…。」
女三宮がやってくることを紫の上はひどく悲しみましたが、それでも事実を受け止め女三宮を迎える準備を進めます。
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女三宮が源氏のもとへやってくる日を迎えました。
初めて女三宮と対面した源氏は、容姿の面でも内面でもあまりに幼い女三宮に愕然としてしまいます。
源氏と女三宮は20歳以上も年が離れているので仕方のないことなのですが、源氏は改めて紫の上の素晴らしさを思い知り、紫の上のことを一層愛するようになります。
一方 紫の上はというと、女三宮が源氏の正妻とて何不自由なく暮らせるよう心を配りしっかりと準備をしてきましたが、やはり頭ではわかっていても心の内はつらく切ないものでした。
「この苦しさから解放されたい…。」と切に願う紫の上は、次第に出家を考えるようになってしまい源氏と紫の上の心はすれ違います。
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源氏、紫の上、女三宮の三角関係が始まってしばらくしたある月のこと。
源氏の住まう屋敷で、蹴鞠大会が開催され、その参加者の一人に、柏木(かしわぎ)という貴族の青年がおりました。
この柏木という男性は、源氏の息子・夕霧の親友で、楽器や蹴鞠に長けた美青年でした。
また柏木は、女三宮に対して強い恋心を長年抱き続けており、源氏の正妻として嫁いでしまった今もなお、女三宮への未練を残し続けていました。
蹴鞠の最中、飛び出してきた猫が屋敷のすだれを引っ張ってしまったため柏木は屋敷の中にいた女三宮の姿を思わず目にしてしまいます。
女三宮のことをずっと忘れることができないままだった柏木は、この出来事をきっかけに女三宮のことをますます強く思い続けるようになってしまいました。
それでも女三宮への未練をどうにかしなければと思った柏木は、女三宮の姉・落葉の宮(おちばのみや)を妻として迎え入れることにしました。
しかし あの日見た女三宮のことをやはり忘れられない柏木は、女三宮へ恋文を送りつけたり、新しく飼い始めた子猫を女三宮だと思って可愛がるようにしたりなどして悶々とした日々を過ごしていました。
柏木が女三宮への思いをどんどん強くしていたある日のこと。
紫の上が突然病に倒れ、源氏は紫の上の看病でつきっきりになってしまいます。
源氏の目が届きづらくなったこのチャンスを逃すまいと、柏木は女三宮のもとを訪れ、強引に関係を結んでしまいます。
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それから季節が過ぎ、紫の上の容態が少しだけ回復したので、源氏は妊娠したとの知らせを受けていた女三宮を見舞おうと屋敷を訪れます。
そこで源氏は、柏木が女三宮へ送りつけていた恋文を発見してしまいます。
あまりに情熱的な柏木からの手紙の内容、そして身に覚えのない女三宮の妊娠…。
女三宮が身籠った子の父親は自分ではなく、柏木であることに、源氏は気づいてしまいます。
源氏は自らの宿命の恐ろしさにおののきます。
かつて自分も、父・桐壺帝の後妻である藤壺と関係を持ち、冷泉帝を身籠らせてしまったことを思わずにはいられません。
自分が犯した罪が、回りまわって自らの身にも降りかかってきた…。まさに因果応報というべきでしょう。
女三宮の妊娠を知った柏木は、自分がしでかした事の重大さから、だんだんと罪の意識に押しつぶされていきます。
また 事実を知った源氏からも強烈な皮肉を言われてしまったことから、柏木は精神を病み、病気になってしまいます。
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女三宮が妊娠した子は無事生まれ、生まれた男児は薫(かおる)と名付けられました。
しかし、妊娠中から心身ともに弱っていた女三宮は、父・朱雀院に出家したいとの旨を相談し、その日の夜うちに出家してしまいました。
女三宮が出家し、世俗との縁を完全に切ってしまったことで柏木は絶望し、容態はさらに悪くなる一方でした。
親友である夕霧が見舞いに訪れた日、柏木は信頼している夕霧にすべての秘密を打ち明け、今回のことで源氏の怒りを買ってしまったことへの後悔と懺悔を夕霧に告白しました。
その後 柏木が回復することはなく、妻・落葉の宮の今後のことを夕霧に頼み、亡くなりました。
柏木の訃報を聞いた女三宮も、柏木の最期を哀れに思い悲しみました。
妻・女三宮のもとに生まれた男児・薫は、柏木の面影のある美しい容姿をしており、さすがの源氏も柏木への怒りは失せ、生まれた我が子を抱くことのできなかった柏木のことを思い、涙を流しました。