第5章
第28帖「野分」~
第33帖「藤裏葉(ふじうらは)」
夕霧が元服したことにより、源氏やその周囲の宮中で暮らす人々の人間関係は、さらにおもしろく描かれていきます。
男女の恋愛模様だけではなく、自分の子どもたちの結婚を政治的に利用し、宮中での地位を高くしようと画策する親世代のバトルや、そんな親の想いを理解できずにすれ違う親と子の確執など、源氏を取り巻く人々の様々な思いが、男と女どちらの目線でも描かれています。
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源氏と宮中内での政権闘争を繰り広げるのが、源氏の最初の妻である葵の上の兄・頭中将(とうちゅうじょう)です。
源氏の義兄にあたる頭中将は、よき理解者であり、二人は親友のような関係を築いてきました。
かつて源氏が須磨で孤独な日々を過ごしていたころ、多くの貴族が源氏に会いに行くことを自粛していた中でも、頭中将は源氏を気遣い、須磨まで源氏に会いに来てくれるような人物でした。
また頭中将は、亡き妹・葵の上の子である夕霧のことも、実の息子のように非常に可愛がっていました。
しかし、源氏親子と頭中将の仲睦まじい関係も、政権闘争の中でだんだんとこじれてしまいます。
頭中将には野望がありました。
それは、「自分の娘・雲居雁(くもいのかり)を、帝の妻として宮中に嫁がせ、自分の地位をさらに高めよう」というものでした。
しかし頭中将の考えをよそに、雲居雁はすでに源氏の息子・夕霧と、相思相愛の関係になっていました。
また先の章でも書いた通り、源氏が後見していた斎宮女御が冷泉帝の妻として先に宮中に嫁いでしまったことで、頭中将はますます焦ってしまいます。
その結果、あれほど可愛がっていた夕霧に対しても、頭中将は次第に冷たくあたるようになります。
このような頭中将の態度を、親である源氏も良くは思わず、頭中将と源氏との仲も次第に悪くなってしまいます。
頭中将は「源氏との仲までこじれてしまってはまずい…。夕霧と雲居雁の恋仲を認めようか…。」
と一度は考えるのですが
「いやいや!源氏の方から折れない限りは認めない!」と、意地になり、雲居の雁を自分の屋敷に閉じ込めてしまいました。
愛する雲居雁に会えず寂しい日々を送っていた夕霧を不憫に思った源氏は、家庭的で包容力のある花散里を夕霧の養母とすることを決め、夕霧が孤独にならないようにと気遣いました。
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月日が過ぎ、夕霧と雲居雁の関係はすっかり世間に知れ渡ってしまいました。
二人の結婚を認めたくなかった頭中将も
「このまま二人の関係を認めず、雲居雁を夕霧以外の別の男と結婚させてしまったとしたら、かえって私や娘の世間体が悪くなってしまうのでは…。」と感じるようになりました。
ついに頭中将は考えを改め、二人の結婚を認めました。夕霧と雲居雁、実に6年越しの交際を経てのゴールインでした。
源氏は夕霧の結婚を喜ぶとともに、愛する雲居雁との結婚を諦めなかった夕霧の辛抱強さ褒めたたえました。
頭中将もまた、帝のお妃(おきさき)争いに躍起になるよりも、夕霧という素晴らしい婿を家族に迎えられたことの方が幸せであるとわかり、一度は仲違いをしてしまった夕霧と再び良い関係を築いていくのでした。
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源氏の息子・夕霧が苦労の末に恋を成就させた一方そのころ。
紫の上が養女として育てていた明石の姫君が、帝の妻として宮中に迎えられる(入内する)こととなりました。
しかし、実の母ではない紫の上が、明石の姫君と一緒に宮中に付き添うことはできないため、実の母である明石の君が、須磨の地から京都にやってきました。
かつて紫の上は、源氏との間に子を産んだ明石の君に対して嫉妬心を抱いたこともありました。
しかし いざ会って話をしてみると、明石の君は美しく気品があり、真面目で我慢強い、とても素敵な女性であることがわかりました。
明石の君も、紫の上を素晴らしい女性であると認識し合い、二人は心を通わせ、親友のような関係になっていきます。
気が付けば源氏も40歳目前になっていました。
自分が面倒を見てきた斎宮の女御、明石の姫君と、2人の娘を帝の妻として嫁がせることのできた源氏のもとに更にうれしい知らせが届きます。
冷泉帝と前帝・朱雀院(帝の地位を退任したため、朱雀帝は「朱雀院」(すざくいん)と名前を改めました)が源氏のもとを訪問し、天皇と同格の権限を有する太政天皇(だじょうてんのう)に准ずる役職である「准太政天皇」(じゅんだじょうてんのう)の待遇を源氏に与えると話しました。
日本の政治を取り仕切る宮中のNo.3に等しい待遇を与えられ、まさにこの時、源氏は政治の世界での栄華の頂点に立ちました。